中国当局、トランプ関税に対する反米感情管理の二面性

トランプ政権の対中関税強化に直面する中国政府は、国内の反米感情を巧みに管理しつつ、経済的自立を促進するという複雑な統治戦略を展開している。現在の対応からは過去の反米感情抑制政策との連続性と新たな変化が見て取れる。

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関税戦争激化の中の微妙なメディア統制

トランプ米大統領が中国に対する関税を145%にまで引き上げる強硬策を打ち出す中、中国外務省は強い批判を展開している。林剣報道官は「関税戦争や貿易戦争には勝者がいなく、保護主義には出口がない」と公式に非難し、アメリカに対して「圧力をかけるという誤ったやり方を放棄し、平等・尊重・互恵の上で対話を通じて問題を解決するよう」求めている1117。

しかし、公式な批判と並行して、過去の事例から中国当局はメディア管理を通じて過度な反米感情の高まりを抑制する可能性が高い。2020年8月、習近平指導部は米国との対立が激化する中で、国民の反米感情を過度に刺激しないよう世論を管理する方針を決め、関係部門に指示していた1518。当時は共産党・政府系メディアの党組織を通じ編集者らに米中関係を報じる際の「精神」を伝達し、トランプ政権の対中批判や制裁を扱う際に「民族の感情を刺激」しないよう指示していた経緯がある。

反米感情とトランプ人気の矛盾

興味深いことに、反米感情が広がっている中国では、トランプ大統領に対する一定の支持も見られる。英経済誌エコノミストによれば、トランプ氏が強硬な対中関税政策を予告しているにもかかわらず、同氏の保守的な価値観と他国の内政に無関心なスタンスを支持する中国人が急増しているという1

この矛盾した現象は、中国の「小粉紅(シャオフェンホン、若い愛国主義者)」がトランプ氏を「懂王(あらゆることを知っていると言い、過度な自信に満ちた人物)」、「川建国同志(トランプ氏の貿易戦争が中国の国力向上に貢献したという意味で皮肉を込めた呼称)」などと呼び、憎らしさと裏腹に親しみも持っていることからも伺える1

SNS上の反米コンテンツ拡散と当局の対応

一方で、中国のSNSでは反米感情を表すコンテンツも拡散している。人工知能(AI)が生成したトランプ大統領が工場で働くミームや動画で米国をやゆする投稿や、「メーク・アメリカ・ゴー・アウェー(アメリカよ、消えろ)」と描かれた赤いキャップを被るペンギンの画像などが広まっている13

このようなネット上の反米コンテンツの広がりに対し、当局がどの程度の規制を行っているかは明確ではないが、2018年以降の習近平政権では大規模な反日デモが発生していないという事実20からは、当局による一定の統制が働いている可能性が示唆される。

関税戦争長期化を見据えた経済的自立の推進

中国は第一次トランプ政権以降、アメリカに頼らない体制の構築を進めてきた。東南アジアやアフリカ、中東などへの輸出先の多様化や、「自立自強政策」という食料自給率を上げるなどの政策を通じて、海外の事情に左右されにくい経済構造の確立を目指している6。

こうした方針は、2012年の反日デモを契機として策定された「中国製造2025」戦略にも通じるものがある。当時、デモ参加者の不満が「キー・パーツという半導体を生産する能力も持っていない中国政府」へと向かった経験から、ハイテク製品の自給率向上を国家戦略に据えた経緯がある20

社会安定を優先する慎重な統治

中国当局がトランプ関税に対する反米感情の抑制を直接的に指示しているという最新の報道は確認できないものの、過去の経験から、社会の安定を最優先する中国共産党が過度な反米デモや社会混乱につながるような世論の高まりは抑制しようとする可能性が高い。

専門家らは、中国政府にとって対米関係は外交政策の要であり、国内経済にも直結するため、いたずらに反米感情が高まらないような配慮をしていると分析している2。米中間の関税合戦が激化する中でも、社会安定を維持するために世論管理を行いながら、長期的な経済自立を目指す二面性のある対応が続くものと見られる。

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