
トランプ政権による大規模な関税政策の発動を受けて急落した米国株式市場が底入れしつつあるとの見方が、一部の市場関係者の間で広がりつつある。過剰反応による急落の後、政策の柔軟化期待や割安感から回復の兆しが見え始めているものの、不確実性は依然として高い状況だ。
急落の背景にトランプ関税とスタグフレーション懸念
トランプ政権は4月2日、「相互関税」を実施する大統領令に署名し、4月5日から各国・地域に一律10%の関税引き上げを実施した。当初は日本に対して24%、EU20%、中国34%などの上乗せ関税を課す方針だったが、日本を含む一部の国・地域については90日間の一時停止を許可する形となった3。
こうした関税政策に対する警戒感と米国経済のスタグフレーション懸念を背景に、S&P500は調整局面入りといわれる高値から10%下落水準を一時下回った1。特に4月初旬の市場では、S&P500種が早朝の取引で2月のピークから20%以上の下落を一時的に記録し、「ベアマーケット(弱気相場)」と呼ばれる節目を付けた5。
関税発表後の2日間でS&P500企業の時価総額は約5兆ドルが消失し、2日間での消失額として過去最大を記録7。米市場の主要株価指数はトランプ氏が大統領選で勝利した昨年11月以前の水準まで下落した2。
「底打ち」の見方広がる三つの理由
しかし、こうした急落相場に底打ちの兆しが見え始めているとの見方が出てきている。その背景には主に三つの要因がある。
第一に、過剰反応による需給の崩れが一巡しつつあるとの見方だ。「米中による報復関税の応酬」という想定された事態で米国株がここまで大きく調整した背景には、投機筋の評価損益の悪化による市場の需給悪化があると指摘されている4。ヘッジファンドが2020年の新型コロナのパンデミック以来の大規模なマージンコール(追証)に見舞われ、強制決済が相場を増幅させた可能性がある4。
第二に、トランプ政権が当初想定されていたよりも柔軟な姿勢を示し始めているとの観測が広がっている。トランプ大統領は4月3日に「相手からの提案次第では関税の引き下げにオープンだ」と発言4。また、ホワイトハウスは50カ国が貿易について話し合うために連絡を取ってきたと述べている5。
第三に、相場の急落により割安感が出始めていることだ。水準感からの押し目買いやトランプ発言などで関税への警戒感がやや緩和したことなどを材料に底入れした格好となっている1。
FRBの姿勢も相場支援材料に
さらに、金融政策面でもポジティブな要素が見られる。4月4日に講演したパウエルFRB議長は、市場で高まる早期の利下げ期待を牽制しつつも、「FRBは腰を据えて状況を判断できる状況にある」とコメントした4。
こうしたFRBが見せる金融システムの安定性への自信は、リーマンショックなどと異なり今回の市場の混乱が金融システムに与える影響は限定的で、通常の政策調整により諸問題を制御可能と見ているFRBの自信を垣間見ることができるとの分析もある4。
日本も交渉開始、各国の対応が進む
関税問題への対応として、各国は米国との交渉を進めている。日本の石破茂首相はトランプ大統領と電話で会談し、担当閣僚を指名して協議を続けることで一致した5。赤沢亮正経済財政・再生相が交渉担当閣僚に指名され、日本政府は全閣僚による総合対策本部を設置して対応に当たっている5。
米財務長官スコット・ベッセントは、日本との交渉を開始したと発表し、他の国々との交渉も楽しみにしていると述べている5。
不確実性は継続、回復には時間が必要
一方で、バリュエーション面からみると、依然として割高感は残存しており、トランプ政策の不確実性の継続もあって、回復までにはしばらく時間を要することになるだろうとの慎重な見方も根強い1。
経済政策不確実性指数をみると、米国の同指数が足元で急速に上昇しており、特に通商政策の不確実性指数は第1次トランプ政権時代のピークを上回っている1。こうした不確実性の高まり自体が株式相場にとってはマイナス要因となるだけでなく、経済に直接悪影響を及ぼす可能性もある1。
投資家はトランプ氏の関税措置が物価上昇を招き、世界最大の経済大国の成長を鈍化させるのではないかと依然として懸念している2。エコノミストのモハメド・エルエリアン氏は、投資家たちは当初、トランプ氏の規制緩和や減税の計画を楽観視する一方で、貿易戦争が起きる可能性を過小評価していたと指摘している2。
市場関係者の間では、短期的な底入れの兆しはあるものの、本格的な回復には各国との交渉進展と政策の不確実性低下が不可欠との見方が強まっている。今後の米国政府の対応と世界経済への影響を見極める展開が続きそうだ。
結論:関税政策の行方が株価回復のカギに
極端な売り圧力が一巡して市場の需給が正常化に向かうようなら、ポジティブな経済サインを市場が消化することで、株式市場は反転に向かう可能性が高まるとの見方がある4。しかし、トランプ政権の関税政策の行方が不透明なまま、市場の変動性は高い状態が続くと予想されている。
「株式市場の野心的意欲と、実際に企業やビジネスリーダーから示されるものの間に、かなりのギャップがある」とホワイトハウス関係者は指摘しており2、実体経済への影響を見極めるには時間がかかりそうだ。株式市場が本格的な回復局面に入るかどうかは、今後のトランプ政権の関税政策の方向性と各国との交渉の進展にかかっている。