
米ドルの実質実効為替相場が1985年のプラザ合意当時の水準に迫る中、国際協調によるドル高是正を図る「プラザ合意2.0」の可能性が金融市場で注目されている。第2次トランプ政権が保護主義政策を推進する中、貿易赤字削減を目的としたドル安誘導の動きが現実味を帯びつつある。
プラザ合意とは何だったのか
1985年に成立したプラザ合意は、レーガン政権第1期に採られた「強い米ドル」政策の修正を目的としたものだった。当時、米国はスタグフレーション対策としてポール・ボルカー連邦準備理事会(FRB)議長による超金融引き締め策を実施していたが、それに伴う金利上昇とドル高が経済低迷を招いていた1。
経常赤字と財政赤字の「双子の赤字」是正のため、G5(米国、日本、西ドイツ、フランス、英国)による国際協調でドル高を修正しようとしたのがプラザ合意の本質であった1。
なぜ今「プラザ合意2.0」が語られるのか
現在、米ドルの実効為替相場は名目・実質ベースともに過去10年以上にわたる上昇局面にあり、実質ベースでは既に1985年のプラザ合意前後の水準に肉薄している47。2025年の「びっくり予想」、いわゆるブラックスワン的なシナリオとして、国際協調によるドル高是正を図るプラザ合意の再来が金融関係者の間で議論されている4。
第2次トランプ政権が「相互関税」の発表など貿易赤字を問題視する姿勢を強める中、米ドル安誘導を目的とした「第2のプラザ合意」にこぎつける可能性が臆測されている15。トランプ大統領は建前では低金利・ドル安を望んでおり、インフレが鎮静化すればドル高是正に動く可能性がある47。
プラザ合意1.0と2.0の違い
現代の金融経済環境は1980年代と大きく異なっている。世界経済の構図が変化し、当時の主な経常黒字国は日本と西ドイツだったが、今日においては日本の黒字は縮小し、代わって中国の黒字が増加している1。
米国の貿易赤字においても、全体に占める日本のシェアは劇的に減少し、中国を中心に新興国のシェアが明確に増加している1。また、金融・資本市場は世界経済を上回って拡大し、国際分散投資が一般化したことで、米経常赤字の負担力が世界経済の規模拡大以上に増している1。
通貨市場の構造も大きく変化しており、1999年のユーロ誕生、中国の人民元国際化、暗号通貨の台頭などが挙げられる1。さらに、世界の外貨準備は1985年の4000億ドル未満から現在の12兆ドル超へと劇的に増加している1。
各国の立場とプラザ合意2.0の可能性
現在のドル高是正や米貿易収支改善のためには、中国を筆頭に新興国の関与が必須となる1。プラザ合意1.0はG5という価値観や利害が一致しやすい国々の間の合意だったが、2.0はより多様な価値観や利害を持つ国々が関与する必要があり、実現のハードルは高い1。
一方で、米国が自発的にドル安を誘導しようとする場合、日本、ユーロ圏、そして中国もそれほど反対しない環境は整っているとの見方もある7。日本は円安是正を希望する立場にあり、ユーロ安も相応に深刻度を増しているため、通貨高の是正を米国が、通貨安の是正を日欧が求めるような構図が成立する可能性がある7。
実現への障壁
トランプ大統領は多国間交渉より二国間交渉を好む傾向があり、通貨政策も様々な国と通商交渉を行う中で個別に検討される可能性が高い1。しかし、マクロ的な金融経済のダイナミズムを理解するスコット・ベッセント財務長官の下で、多国間アプローチが模索される可能性も否定できない1。
現在はインフレ高止まりが社会問題化している状況下で、通貨高を是正する必要性は大きくないが、インフレが鎮静化すれば、ドル高是正が議題になりやすくなる7。特にラストベルト(米国の製造業が衰退した地域)の支持を背負うトランプ政権にとって、ドル高是正は無視できない課題となる可能性がある7。
今後の展望
「プラザ合意2.0」はあくまでリスクシナリオの一つであり、実現のハードルは高い7。しかし、米国が対中国でも対主要国でも大きな貿易赤字を抱えている現状を踏まえると、第2次トランプ政権が「プラザ合意2.0」に踏み込む理屈は立つ7。
政治的には対人民元でのドル高是正を前面に押し出す可能性もあるが、「米国の過剰な貿易赤字を是正する」という大義名分で国際協調を図る可能性もある7。いずれにせよ、通貨安の是正は日本やユーロ圏にとって悪い話ではなく、国際金融市場は今後のトランプ政権の動向を注視している715。