
UBSグローバル・ウェルス・マネジメントは最近発表した投資分析レポートで、トランプ政権が導入した「相互関税」が日本を含む世界経済に与える影響について分析し、警鐘を鳴らしている。日本に対する24%の関税率は大きな懸念材料となっており、今後の経済見通しに暗い影を落としている。
相互関税の概要と日本への影響
トランプ政権は4月9日に「相互関税」を発動し、日本からの輸入品に24%の関税を課すことを決定した2。この関税率はトランプ政権が「日本はアメリカに対して46%の関税を課していることに相当する」という独自の計算に基づいており、アメリカの商務省データによると、2024年の日本からアメリカへの輸出額1482億ドルと日本の貿易黒字684億ドルから算出されたものだという10。
また、すべての国や地域を対象に一律10%の基本関税も導入され、国別に異なる「相互関税」率が上乗せされる形となっている7。中国に対しては34%、EU(欧州連合)に対しては20%、スイスには31%などの関税率が設定されている3。
UBSの分析と経済への影響
UBSグローバル・ウェルス・マネジメントの最高投資責任者マーク・ヘーフェレ氏によると、これらの関税措置により米国の実効関税率は9%から約25%に上昇する可能性があり、これは第二次世界大戦以来の最高水準となるという3。
「短期的なショックと関連する不確実性により、米国経済は短期的に減速し、2025年通年の成長率は1%前後またはそれ以下に低下する可能性が高い」とヘーフェレ氏は分析している3。
UBSの基本シナリオでは、時間の経過とともに関税が引き下げられると想定しているが、このプロセスには数ヶ月かかる可能性があり、その間「相互的」関税の原則がさらなるエスカレーションを引き起こす可能性があるとしている3。
日本企業への具体的影響
トランプ政権は先に発表した自動車への25%関税に加え、今回の相互関税を実施することで、日本企業、特に輸出依存度の高い自動車・部品メーカーへの打撃は避けられない見通しだ。
自動車への25%関税などトランプ関税が株式市場の心理を悪化させ、PER(株価収益率)が低下する形で株価は大きく下落している1。3月27日の世界の自動車株の初動反応は、日本の自動車株が3~5%下落、韓国は3~4%下落、欧州も3~5%下落、米国は4~7%下落した1。
民間シンクタンクの専門家は、自動車への25%関税と相互関税を合わせた影響について、日本の国内総生産(GDP)が0.5%から0.7%程度減少するとの試算を示している2。
リセッション(景気後退)のリスク
UBSが特に懸念しているのは、関税が3〜6ヶ月以上維持されるか、さらに増加する可能性のある「下振れシナリオ」だ。このシナリオでは、米国が景気後退に陥る可能性があるとヘーフェレ氏は警告している3。
同社はこのシナリオに30%の確率を割り当てており、これにより「貿易相手国からの報復の連鎖」と「FRBからのさらに大きな利下げ」につながる可能性があるとしている3。
日本経済アナリストの間でも、米国のリセッション入り確率について調査したところ、有効回答数の5割が「30%以上50%未満」、3割が「30%未満」と回答している4。JPモルガン証券の西原里江チーフ株式ストラテジストは「相互関税を踏まえリセッション入り確率を3日に40%から60%に引き上げた」と述べている4。
今後の見通しと投資戦略
UBSは投資家向けの戦略として、金を戦略的ヘッジと見ており、「現在1オンス当たり$3,000を超えている金は、地政学的リスクとインフレリスクに対するヘッジとして引き続き機能すると予想している」と述べ、年末までに1オンス当たり$3,200を目標としている3。
株式については、ボラティリティが続くと予想しているが、「市場は年末までに上昇すると考えており」、AI、長寿、電力・資源のテーマに機会があると分析している3。
一方、ドルは当初強くなったものの、成長が期待を下回り、利下げが加速した場合、長期的には弱くなる可能性があるとしている3。
関税引き下げの可能性
日本への相互関税率は24%にのぼるが、専門家の間では7割が「引き下げられる」と回答している4。みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミストは「相互関税の論拠はかつてないほどデタラメだ。24%を上限に交渉が始まる」と指摘している4。
インベスコ・アセット・マネジメントの木下智夫グローバル・マーケット・ストラテジストは「米国からの食料・LNGなどの輸入増加や米国向けの直接投資の増加などを含むディールを締結し、追加関税が一定程度引き下げられる」と予想している4。
結論
UBSの分析によれば、トランプ関税は日本を含む世界経済に深刻な影響を与える可能性があるが、最終的には交渉を通じて関税率が引き下げられるという基本シナリオを想定している。しかし、関税の長期化や貿易戦争へのエスカレーションが起きれば、世界経済はリセッションに陥るリスクも否定できない。
UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメントのジャパン・エクイティ ストラテジスト小林千紗氏は「今は、年後半の株価回復を見据えて我慢する時期だ」と述べている1。日本市場においては、4月末から5月の決算発表が株価回復の契機になるとの見方を示している。
専門家の間では、当面は不透明感が高まる中、投資家のリスク回避の動きが続く可能性が高いが、長期的には関税の引き下げと世界経済の回復を見込む声が多い。