免責事項
- このレビューはAudiosenseから誠実な品質レビューを読者に伝えるために提供されたサンプルに基づいて書かれています。
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Audiosense DT600の概要
こんな人におすすめ
- たくさんアンプやDAPを持っているほどのオーディオ好き
- 1つのイヤホンでいろんな音を楽しみたい
- リケーブルで本当の音の変化を味わいたい
基本スペック
- ドライバー:6BA
- 周波数特性:20Hz~22kHz
- インピーダンス:16Ω
- 感度:107±3dB/mW
- ケーブルコネクタ:MMCX
- 価格帯:20000円~30000円
- パッケージ:7.5/10.0
- ビルドクオリティ:9.0/10.0
- 装着感:9.0/10.0
- 高域:9.5/10.0
- 中域:9.5/10.0
- 低域:7.5/10.0
- 歪みの少なさ:7.0/10.0
長所
- サウンドバランスが良い
- フラット
- 鮮明感が高い
- シャープでキレがある
- 高精細な粒立ち感
- 音が鮮明かつシャープなのに相対的に聴き疲れしにくい
- 豊かな包まれ感がある
- リケーブルを楽しみたい人向き
短所
- 駆動次第で変わりすぎる音質
- 解像度が低い
- 全体的にぼんやりした音
- 一般的に出力インピーダンスが低いDAPで鳴らすとサウンドバランスが劣化
Audiosense DT600
¥22,980(税込)
パッケージ(7.5)
ビルドクオリティ(9.0)
ビルドクオリティは良好です。私の個体はケーブルとイヤホン本体のかみ合わせもよく、しっかりとしています。
デザインはとても美しく、きれいです。
装着感(9.0)
耳への収まりは比較的良好です。装着感は良いでしょう。
Audiosense DT600
¥22,980(税込)
音質
- SAMURA HATS Type3500RHRシステム:HEAD & TORSO、左右S-Typeイヤーモデル(Type4565/4566:IEC60268-7準拠)
- AWA社製Type6162 711イヤーシミュレータ(HATS内蔵)
- Type E610A 711イヤーシミュレータ(カプラータイプ・IEC60318-4準拠)
- マイクプリアンプ:Type4053
- Type5050 マイクアンプ電源
- 出力オーディオインターフェース①:RME ADI-2 Pro FS R Black Edition
- 出力オーディオインターフェース②:Antelope Audio Amari
- 入力オーディオインターフェース:RME ADI-2 Pro FS R Black Edition
- アナライザソフト①:TypeDSSF3-L
- アナライザソフト②:Room EQ Wizard
周波数特性
Audiosense DT600は出力インピーダンスの影響を受けやすく、駆動に工夫が必要なため、今回掲載する周波数特性は特殊です。
この事情については以下の記事で解説しています。
まず、Antelope Audio Amariを用いて生成された、出力インピーダンスによる周波数の変化グラフを載せます。
次にDT600の自由音場補正済み制動特性グラフを載せます。
これらのグラフから導き出される結論は、多くの人にとって、Audiosense DT600は高い出力インピーダンスで駆動したほうがバランスが良いサウンドと感じられる可能性が高く、とくに高域の聴覚減衰が著しい年配の方には、そう感じられる傾向が強くなるだろうということです。
オーディオステータス
今回は特殊なので、2種類のオーディオステータスを掲載します。一般的なIEMの理想駆動に近い出力インピーダンス0Ω駆動時のオーディオステータスと最適バランスに近い85Ω駆動時のオーディオステータスです。
オーディオステータスからも85Ω設定時のほうが明らかに素晴らしいバランスで音楽を聞かせてくれることが期待されます。
聴感比較
実際に自由音場フィルターを適用して測定用HATSで録音した音源が以下のものになります。あなたは0Ω出力時と85Ω出力時、どちらがいい音だと思いますか?
それぞれの音源は比較しやすいよう、500Hzのテストトーンで音量がほぼ同じになるよう調整されて録音されたのち、-23LUFSにラウドネスノーマライズされています。
また、今回はサウンドバランスの違いを明確に感じ取れるようにするために測定用HATSで録音したので、広がり感などはそれほど表現されていません。多くの人にとって、実際の音像はもっとぼんやりしていることに注意してください。あくまでバランスの違いを重点に比較鑑賞するためのものです。
- 0Ω出力時(-23LUFS)
- 85Ω出力時(-23LUFS)
- 0Ω出力時(-23LUFS)
- 85Ω出力時(-23LUFS)
音質解説
今回は標準イヤピの中で、緑軸のLサイズを使い、Antelope Audio Amariで出力インピーダンス85Ω設定で駆動してレビューします。各評価値は85Ω設定時に従いますが、()内に0Ω設定時の評価値も補足掲載します。
Audiosense DT600は85Ω設定時、全体が自由音場フラットに近づき、中域の透明感を重視したサウンドになります。高域の伸びも良くなり、低域は量感が少し弱くなりますがかなりの深みが出るので、中域充実系といっても、かまぼこのように音が集まって聞こえず、むしろ広く開放的に聞こえるようになります。多くの人にとってかなり理想に近いフラットサウンドだと思えるでしょう。
なお、0Ω駆動時の私のインプレッションについては以下の記事を参照してください。
レビューの各評価点の判断基準は以下の通りです。
- 原音忠実度:自由音場フラットに基づく判定値。どれだけ自由音場フラット(≒録音音源の再現度)に忠実かを表します。音域ごとに標準偏差から自動で算出、判定されています(低域:20Hz~200Hz;中域:200Hz~2.5kHz;高域:2.5kHz~20kHz;全体:63Hz~13kHz)[S+が最も原音忠実]
- 臨場感/深さ/重み/太さ/厚み/明るさ/硬さ/艶やかさ/鋭さ/脆さ/荒さ/繊細さ/存在感:自由音場補正値に80phon時の等ラウドネス曲線逆補正をかけた聴感周波数に基づく判定値。一般的に適正音量時、各要素が聴感上ニュートラルからどれだけ強調されて聞こえるかの期待度を表します。自動算出、判定されています。[Bが最もニュートラルに近く、S+が最も強調度が高く、D-が最も強調が弱い]
- 質感の正確性:自由音場補正値に80phon時の等ラウドネス曲線逆補正をかけた聴感周波数に基づく判定値。一般的に適正音量時、200Hz~2.5kHzがどれだけ聴感上ニュートラルに聞こえるかの期待度を表します。自動算出、判定されています。[S+が最もニュートラルに近い]
- 定位の正確性:自由音場補正値に80phon時の等ラウドネス曲線逆補正をかけた聴感周波数に基づく判定値。一般的に適正音量時、1.5kHz~8kHzがどれだけ聴感上ニュートラルに聞こえるかの期待度を表します。自動算出、判定されています。[S+が最もニュートラルに近い]
- オーケストラのテクスチャ/雅楽のテクスチャ:それぞれのリファレンス音源を用い、各リファレンスイヤホンからの音質差を聴感テストしています。なお、リファレンスイヤホンは参考用であり、S+ほどリファレンスイヤホンに近いというわけではありません。[S+が最も評価が高い]
- クリア感:THD測定値に基づいて決定されています。[S+が最も評価が高い]
これらの評価値は最終的なスコア算出に影響を与えますが、すべてではありません。
低域(7.5)
- 原音忠実度:A (A+)
- 臨場感:A- (A+)
- 深さ:A- (A)
- 重み:B (A-)
- 太さ:B- (B+)
- 存在感:B- (B+)
さて、85Ω駆動した場合のDT600の低域はお世辞にも良いとは言えません。サウンドバランスは深みがあって悪くないのですが、制動が悪いせいで低域が膨張してしまっており、全体的にぼんやりしています。
そのため低域のディテールははっきりしません。第一義的にはよくない低域の典型と言えます。
ところが、実際に音楽鑑賞してみると少し考えが変わります。このぼんやりした低域は音の広がりが良いので、低域自体の存在感の不足をその広がりによって中和しているようなところがあります。
もしこの低域がもっとクリアに聞こえていたら、中域に対する量的な貧弱さがより意識されて音楽の支えが弱いと感じると思われます。しかし、このイヤホンの場合、低域のぼんやりした広がり感によって、それをあまり感じさせず、むしろ音がもやもやと吸い込まれていくドライアイスの足場のような効果をもたらしています。
率直に言って、まともに音を聞かせていないという意味ではあんまり褒められないんですが、これは悪くないと思うところがあるのも事実です。
個人的な好みではこの表現は面白いと思いますが、原理原則で考えると、この低域に高評価はできません。
中域(9.5)
- 原音忠実度:S- (A+)
- 厚み:B (A-)
- 明るさ:B+ (B+)
- 硬さ:A- (B)
- 存在感:B (B)
中域はDT600の真骨頂が感じられる場所です。膨張していると言うよりは拡散している低域の支えの中から、音像がきらきらしながら浮かび上がるように聞こえてきます。
音の立ち上がりが比較的良いので、音像の輪郭はしっかりしていますが、中域の中心部分は音像がぼんやりしており、調和的な雰囲気があります。
先程掲載したうち、上のほうの音源で0Ω出力時と85Ω出力時を聴き比べてみてください。0Ωのほうは少し輪郭がマイルドですが、中域に「しこり」というか「こぶ」のような出張った、音が聞き苦しい箇所がある気がしませんか?それに比べて85Ω出力時の音は音の粒立ちははっきりしているのに、0Ω時にあったしこりのような部分が取れて、音がすんなり空間に溶け込んでいくようにすっきりと聞こえるのがわかると思います。
この独特のサウンド、私を夢中にさせます。鋭く立ち上がった音が空間ですぐに中和されていき、包み込む雰囲気へと変わっていく、この美しい表現。なんて素敵なんだろうと思います。
高域(9.5)
- 原音忠実度:B (C-)
- 艶やかさ:B+ (B)
- 鋭さ:B (B-)
- 脆さ:C+ (C-)
- 荒さ:C- (D-)
- 繊細さ:C (D)
- 存在感:C (D+)
高域はかなりはっきりとした輪郭を持ち、鮮やかで鋭くシャープです。
全体的にぼんやりしたDT600のサウンドの中で高域は別格で鮮明に聞こえ、鋭く、高精細で立ち上がりも早く、機敏です。ちょっと強いくらいの鮮明感なんですが、すぐに空間に滲んでいくので、そのきつさはほとんど後を引きません。
そのため、どんな音楽でもイメージは立ち上がりが鮮烈に刻みつけられる印象がありますが、その鮮烈さが棘となって耳に残ることはなく、スーッと消えていきます。
空気感にも優れているため、高域は開放的で高く、音が滞留せずに発散されていく気持ちよさがあります。
この味付け、すごくいいですね。T800のようなサクサク感もあり、リズムを明確にする、非常に心地よい刻みの良さがあります。
定位/質感
- 質感の正確性:B+ (B+)
- 定位の正確性:B- (C)
- オーケストラのテクスチャ:C-
- 雅楽のテクスチャ:C
定位と質感は以下の音源によって聴感テストされています。また質感についてはそれぞれリファレンスとするイヤホンは以下の通りです。
- オーケストラ:Berliner Philharmoniker and Rafael Kubelik「Dvo?ak: Symphony No. 9 in E Minor, Op. 95, B. 178, “From the New World” – IV. Allegro con fuoco」(「Dvorak: The 9 Symphonies」)[リファレンスイヤホン:AKG N5005]
- 雅楽:宮内庁楽部「越天楽」(「雅楽~平安のオーケストラ」)[リファレンスイヤホン:final A3000]
オーケストラではコンサートマスターと指揮者の位置関係、チェロとバイオリンのバランスを重視しています。雅楽では篳篥の音が最も力強く聞こえること、とくに「塩梅」がきれいに聞こえることを重視しています。
この項目は各言語音の音域に対応し、西洋音楽(および洋楽)が好きな人はオーケストラのテクスチャを、日本の伝統音楽(および邦楽)が好きな人は雅楽のテクスチャを重視すると満足度が高いでしょう。
中域の透明度は悪くない気もしますが、クリア感が圧倒的に足りないために、立体感の再現度はよくありません。
フルオケはまず低域の不足で中域が薄く、重厚感に欠け、ふらふらして聞こえます。音の立ち上がりは良いのでオーケストラの緩急は悪くありませんが、全体的に薄くぼんやりしていて、快適ではありませんね。
雅楽も雰囲気は明るく、そしてぼんやりした感じで、靄の中で演奏しているかのようなサウンドです。これはこれで独特の雰囲気と清涼感がありますが、本来の雅楽はもっと重厚で力強いです。雰囲気はとても好きですけどね。
グルーヴ/音場/クリア感
- 音場:B+
- クリア感:B-
85Ω設定時は低域が引っ込みがちで、立体感も薄く、サウンドバランスも比較的平面的で低域が弱いので、中域が少し浮き上がって聞こえます。
クリア感は高い方ではありません。並クラスですね。
音質総評
- 原音忠実度:S- (B+)
- おすすめ度:A- (B-)
- 個人的な好み:S+
個人的な趣味で言えば、85Ω出力時のDT600は私の音楽趣向に合っているサウンドを奏でてくれるため、最上級のイヤホンであると言えます。問題はこのサウンドをDAPで味わえないということで、今のところAMARI専用です。DAPで素晴らしい音質を体感したい場合は「Etymotic Research ER38-24」を使うことで最適なバランスに近い状態で駆動できます。
85Ω出力時のサウンドバランスはかなり良いのでおすすめですが、問題は誰もがそのサウンドを楽しめるわけではないですし、私も85.3Ω以上の出力インピーダンスの機器につないだときに、このイヤホンがどんな音を奏でているかなんてことはわかりません。
この機種は駆動する機器によって違う音を聞かせるだけでなく、1Ω差でも全体像が少し変わって聞こえるようなイヤホンです。ここまで繊細な変化をする感じだと、ケーブル抵抗値の些細な変化でも音質がだいぶ変化するだろうことが容易に予想されます。たぶん高品質なケーブルほど面白くない音になると思いますが。
実際Audiosenseもこのイヤホンがケーブルで音が変わることは測定値で確認しているので、DT600で日本のファンにリケーブル効果を楽しんでほしいそうです。
音質的な特徴
美点
- サウンドバランスが良い
- フラット
- 鮮明感が高い
- シャープでキレがある
- 高精細な粒立ち感
- 音が鮮明かつシャープなのに相対的に聴き疲れしにくい
- 豊かな包まれ感がある
- リケーブルを楽しみたい人向き
欠点
- 駆動次第で変わりすぎる音質
- 解像度が低い
- 全体的にぼんやりした音
- 一般的に出力インピーダンスが低いDAPで鳴らすとサウンドバランスが劣化
繊細な粒立ち感
フラットに近いサウンド
シャープで鮮明
Audiosense DT600
¥22,980(税込)
総評
Audiosense DT600はDAPやポタアン、据え置きアンプなど、音響機器を多数持つ人こそ喜びを感じるような、非常にマニアックなイヤホンです。このイヤホンは本当に、接続する機器によって音が変化するため、アンプやリケーブルを駆使して自分好みの駆動を楽しむ人向けのコアな商品です。しかもサウンドバランスはそれなりに良好な水準を維持したまま、中域や高域が変化していくので、本当の意味でのリケーブルの楽しみをもたらしてくれます。これを使えば、オーディオチェーンの組み合わせを変えて毎日違うサウンドで出かけるなんてこともできるでしょう。デザインも秀逸です。真の意味でのオーディオ変態向きの製品ですね。
Audiosense DT600
¥22,980(税込)
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