
2025年4月、金価格は史上最高値となる1グラムあたり16,605円を記録した。2000年当時の約1,000円から実に10倍以上の上昇となり、投資家の間では今後の展望に注目が集まっている。過去の金価格上昇局面と現在の状況を比較しながら、このトレンドが長期的に継続するかを分析する。
現在の金価格高騰の背景
金価格は2024年から2025年にかけて顕著な上昇を続けている。ゴールドマン・サックスは2025年4月14日、年末の金価格予想を従来の1オンス=3300ドルから3700ドルへと大幅に引き上げた4。この背景には、世界各国の中央銀行による需要増加と景気後退リスクに伴う上場投資信託(ETF)への資金流入がある。
「2025年には、米国や欧州などで景気抑制的な水準にある政策金利を引き下げる動きが継続することが予想されます。金価格は金利低下時に上昇する傾向があるため、緩やかなペースながらも利下げの継続が予想されることは、金価格にとって追い風になると期待されます」とピクテ・ゴールドのレポートは指摘している2。
また、トランプ新政権の経済政策も金価格を押し上げる要因となっている。関税引き上げや減税、規制緩和に重点を置いた政策は、米国の政府債務拡大やインフレ再燃につながる可能性があり、これに対するヘッジ手段として金への注目が高まっている2。
過去の金価格上昇局面との比較
歴史的に見ると、金価格は1980年に当時の史上最高値である6,945円を記録した後、1983年から下降トレンドに転じ、1990年代には市場最安値の865円まで下落した11。しかし2000年代に入ると、金価格は再び上昇基調に転じた。
特に2008年のリーマンショックは、金価格の動向に大きな影響を与えた転換点となった。「2008年8月までの金価格は1グラムあたり平均3,259円でしたが、リーマンショック後(同年9月~12月)の金価格は1グラムあたり平均2,731円まで下落しました」5。この一時的な下落の後、世界的な金融緩和政策を背景に金価格は上昇トレンドに転じた。
日本においては2013年、安倍政権下での「アベノミクス」も金価格上昇の重要な要因となった。「円安が進行し、2012年12月25日時点で84円台であったドル円相場は、2020年9月2日に106円台となります。円安は、円建ての金価格を上昇させました」12。また、大規模な金融緩和と財政出動は日本国債の価値低下懸念を招き、より安全な資産である金への需要を喚起した。
専門家による今後の見通し
金価格の今後の見通しについて、市場専門家は比較的楽観的な見方を示している。ゴールドマン・サックスは「景気後退が発生した場合、ETFへの資金流入がさらに加速し、金の価格は年末までに3,880ドルに達する可能性がある」と予測している4。また中央銀行の需要予測も、従来の月間70トンから80トンに上方修正されている。
テクニカル分析の観点からも、「直近安値(1,600ドル)から2倍になると想定すると3,200ドルが注目されそうで、2025年4月時点で到達しています」と指摘されている7。
一方で短期的な変動については慎重な見方も存在する。「短期的な金価格を予測するのは困難です。金の価格変動にはさまざまな要因が絡んでおり、突然価格が上下する可能性もあります」3との指摘もある。
長期的な金価格上昇の構造的要因
金価格の長期的なトレンドを考える上で、構造的な要因にも注目する必要がある。「10年単位の長期スパンでみると、金価格は今後も上昇することが予測されます。その理由として、金の埋蔵量に限りがあること、採掘コストの上昇、アクセサリーや工業での金需要の高まりなどが挙げられます」3。
また世界的な金融不安を背景に、「機関投資家を中心に資産の一部を金にする動きが強まっている」11点も見逃せない。さらに「各国の金融緩和によって金利が実質マイナスになっていることで、各国の中央銀行でさえ2010年以降は買いに回っている」11状況は、金価格を下支えする要因となっている。
世界的な金争奪戦は今後も続くと予想されており、特に中国やインドといった新興国の需要は堅調に推移する見込みだ。「例年通りであれば、この2国で新産金の5割以上を買い占める」11ことが予測されている。
金は「信用リスクのない無国籍通貨」11としての性質を持ち、インフレヘッジ機能を備えていることから、不確実性の高い世界経済において重要な位置を占め続けるだろう。テクニカルやファンダメンタルズの観点から、2025年以降も金価格の上昇トレンドは継続すると期待されている7。
投資家にとっての金の位置づけ
金価格の上昇トレンドは長期的に続く可能性が高いものの、短期的な変動リスクには注意が必要だ。金は「利息を生まないほか、株式等と同様に価格変動の大きい資産」2である一方、「金の値動きは主要な資産とは異なる傾向があることから、金と他の資産とを組合わせることで分散投資効果が期待される」2特徴がある。
長期視点で運用する分散投資ポートフォリオに金を組み入れることで、見通しが不透明な環境においても安定的な資産形成を目指すための一助になると期待されている。
金価格の上昇トレンドは、世界経済の不確実性が続く限り、基本的には維持されるだろう。しかし投資家は、短期的な価格変動に一喜一憂するのではなく、資産ポートフォリオの一部として金を位置づけ、長期的な視点で運用することが賢明といえる。