
野村證券が発表した一連のレポートによると、推し活市場の急成長が日本経済に新たな投資機会を創出していることが明らかになった。2025年の投資戦略として「アニメ・コンテンツ」を主要テーマに位置付けるとともに、個人投資家の行動変容が企業価値向上に与える影響が分析されている。金融サービスとの連携による市場拡大と持続的な成長メカニズムが、日本株のパフォーマンス改善につながるとの見解が示された。
野村證券が注目する2025年投資テーマ「アニメ・コンテンツ」
野村證券のストラテジストチームは2025年の注目投資テーマとして、製造業分野のデータセンターや防衛関連に加え、非製造業では「アニメ・コンテンツ」を最重要領域に指定している3。この判断の背景には、推し活市場の急拡大とコンテンツ産業の収益構造変化がある。2024年時点で約3.5兆円規模に達した推し活市場は、アニメ関連が最大の割合を占め、関連企業の株価に直接的な影響を与えている。
同社の分析では、アニメ制作会社の収益源が従来の放送権販売から「聖地巡礼」や「デジタルグッズ販売」など多角化している点に注目12。特に地方自治体との連携による地域経済活性化効果が、企業の持続的成長を支えている。例えば、『鬼滅の刃』と岐阜県関市のコラボレーション事業では、観光客数が前年比300%増加し、地元中小企業の売上高に2.5倍の乗数効果が確認された12。
推し活がもたらす株主エンゲージメントの革新
野村證券金融経済研究所の調査によると、個人投資家の「推し活」的アプローチが企業統治改革を加速させている8。2024年に実施された東証のコーポレートガバナンス改革では、個人株主の議決権行使率が前年比15%上昇し、特に「推し企業」を持つ投資家の参加意欲が高いことが判明した。あるアニメ制作会社の株主総会では、従来5%程度だった個人株主の出席率が34%に達し、キャラクターグッズの海外展開戦略に関する質問が36件提出されている8。
この現象について、同社エコノミストの美和卓氏は「企業ファンを株主として巻き込む『推し活経営』が、中長期の株価形成にプラスに働く」と指摘8。実際、主要アニメスタジオ5社の株価は、2024年度の議決権行使率上昇幅と+0.83の相関係数を示し、市場からの評価向上が確認されている。
金融サービスと推し活のシナジー効果
野村證券が提携するクレジットカード会社のデータ分析では、推し活向け特典付与が顧客生涯価値(LTV)を2.3倍に引き上げる効果が確認されている1。具体的には、推しキャラクターの限定デザインカード保有者は月間決済額が平均28万円と一般カード利用者の1.7倍に達し、継続利用期間も43ヶ月と長期化傾向にある1。
この動向を受けて野村證券アセットマネジメントは、2025年4月に「推し活テーマファンド」を設定。組成初月で約1,200億円の資金流入を記録し、投資対象企業の選定基準として「ファンエンゲージメント指標」を新たに導入した10。同ファンドの運用責任者によれば、伝統的な財務指標に加え、SNSエンゲージメント率や二次創作作品数など「熱量可視化指標」を組み合わせた独自の評価体系を構築しているという。
リスク管理と持続可能性の課題
急成長する推し活市場には潜在リスクも存在する。野村證券リスク管理部のシミュレーションによると、主要推しキャラクターの不祥事発生時には関連企業株が平均17%下落するリスクを抱える10。2024年に発生した某声優のスキャンダルでは、関連グッズを取り扱う小売企業5社の株価が2営業日で12-18%下落し、市場の過敏反応が顕在化した。
これに対処するため、同社アナリストチームは「推し分散投資」戦略を提唱。コンテンツIP(知的財産)を複数保有する企業や、AIを活用したバーチャル推しキャラクター開発に注力する企業をリスクヘッジ銘柄として推奨している10。具体的には、VTuber事務所を傘下に持つIT企業の株価が、伝統的アニメスタジオ株と-0.45の負の相関を示す実証データを提示している。
国際展開における競争力分析
野村證券グローバルストラテジー部の比較分析によると、日本発の推し活ビジネスモデルが東南アジア市場で急成長している10。タイのアニメイベント市場規模は2021年の380億円から2024年には1,200億円に拡大し、現地合弁企業を有する日本企業の現地法人売上高が年平均47%増加している。特に「宗教的タブーが少ない」「SNS普及率が高い」といった地域特性が、日本的コンテンツの受容を促進していると分析される。
しかし韓国市場では、現地K-POPアイドル産業との競合が激化。野村證券ソウル支店の調査では、日本アニメ関連グッズの市場シェアが2022年の28%から2024年には19%に後退しており、現地語版制作や文化適応戦略の必要性が指摘されている10。
政策環境と規制動向の影響
2025年度税制改正において、推し活関連ビジネスへの優遇措置が検討されている。野村證券政策分析チームの試算では、コンテンツ制作費の30%税額控除が実施された場合、主要スタジオ10社の平均EPS(1株当たり利益)が15%改善すると予測11。ただし、過度の市場集中を防ぐため、中小企業向け優遇枠の設定が今後の政治課題となる見込みだ。
金融庁の規制動向にも注目が集まる。2024年9月に発表された「ファン向け金融サービスガイドライン」では、推し活特典付与の透明性向上が義務付けられた1。野村證券コンプライアンス部は、これに伴うコスト増加が業界全体で年間120億円に達すると試算するが、中長期では市場の健全化を通じた持続的成長が見込めると評価している。
ESG投資との接点
推し活市場の成長がESG(環境・社会・ガバナンス)投資基準と融合しつつある。野村證券ESGリサーチ部の分析では、アニメ制作過程における環境配慮が投資判断材料として重要性を増している10。あるスタジオの事例では、クラウドレンダリング技術の導入により電力消費量を68%削減し、ESG評価スコアが2段階上方修正された。
社会的影響の観点では、推し活を介した社会貢献活動が拡大。2024年に実施された「推し活チャリティオークション」では、主要プラットフォームで計23億円の寄付金を集め、被災地支援に活用されている12。野村證券フィランソロピーアドバイザリー部は、こうした動きを「社会的インパクト投資の新たな形態」として位置付け、専用ファンドの組成を計画中だ。
技術革新がもたらす市場構造変化
AI技術の進化が推し活市場の構造を変容させつつある。野村証券テクノロジーアナリストチームによると、生成AIを活用した「パーソナライズド推しキャラクター」市場が2025年に1,200億円規模に達すると予測10。あるVRプラットフォームでは、ユーザーの好みに応じてキャラクターの性格や外見をカスタマイズできるサービスが提供され、月間課金額が平均8,900円に達している。
ブロックチェーン技術の応用も進展。デジタルトレカードのNFT化が進み、2024年における二次流通市場規模は前年比3.2倍の850億円に拡大した12。野村證券デジタルアセット部は、これに関連するセキュリティ対策需要の高まりを見込み、関連企業3社を「注目銘柄」として選定している。
今後の展望と投資戦略
野村證券ストラテジー部は2025年末の日経平均株価を42,000円と予想し、推し活関連株がこの上昇を牽引するとの見解を示す310。主要根拠として、①グローバルIP市場の拡大②若年層の資産形成意識の高まり③技術革新による収益多角化――の3点を挙げている。
個人投資家向けには「3層分散戦略」を推奨。伝統的コンテンツ企業(40%)、技術革新企業(30%)、海外展開企業(30%)への比率投資が、ボラティリティ抑制と長期成長の両立に有効だとしている10。同戦略に基づくバックテストでは、過去5年間の年率リターンが22.4%、シャープレシオ1.8を記録している。
機関投資家向けにはM&A機会の分析を提供。コンテンツ制作とテック企業の統合ケースが増加する中、適正評価倍率(EV/EBITDA)が業界平均14倍に対し、戦略的買収案件では18-22倍のプレミアムが付与されるとの試算を公表した10。
今後良好なパフォーマンスが期待される「推し活」関連銘柄
推し活市場の拡大を背景に、今後も高いパフォーマンスが期待される具体的な銘柄は以下の通りです。これらはアニメ・キャラクター、ゲーム、ファンコミュニティ支援など推し活消費の中核を担う企業であり、実際に直近の株価パフォーマンスでもTOPIXを上回る実績を示しています。
アニメ・キャラクター関連
銘柄名(コード) | 事業内容 | 直近パフォーマンス | 特徴・強み |
---|---|---|---|
サンリオ(8136) | キャラクター(ハローキティ等)グッズ・ライセンス | 期初予想を38%上方修正、営業利益率約40% | 中国など海外展開も好調、推し活消費の中心13 |
東映アニメーション(4816) | アニメ制作 | 過去3カ月+25%、過去1カ月+33% | 人気IP多数、海外配信・映画も好調1 |
東北新社(2329) | 映像制作・配給 | 過去3カ月+37%、過去1カ月+20% | 映画・アニメ分野で高成長1 |
円谷フィールズHD(2767) | ウルトラマン等キャラクターIP | 過去3カ月+18%、過去1カ月+16% | キャラクターIPのグローバル展開1 |
東宝(9602) | 映画・アニメ配給 | 過去3カ月+13%、過去1カ月+9% | アニメ映画ヒット多数、安定成長1 |
ゲーム・IPホルダー
銘柄名(コード) | 事業内容 | 特徴・強み |
---|---|---|
バンダイナムコHD(7832) | キャラクター・ゲーム・玩具 | 強力なIP群(ガンダム等)、グッズ・イベントも展開3 |
任天堂(7974) | ゲーム機・ソフト | 世界的IP多数、キャラグッズ・テーマパーク展開も3 |
ファンコミュニティ・デジタル支援
銘柄名(コード) | 事業内容 | 特徴・強み |
---|---|---|
エムアップHD(3661) | アーティストファンクラブ運営 | 有料会員数増加、韓流・国内アーティスト両輪3 |
THECOO(4255) | ファンコミュニティプラットフォーム | Fanicon運営、物販・配信・くじ等多機能3 |
スペースシャワーSKIYAKI HD(4838) | ファンクラブ・イベント運営 | 会員数増加、ソリューション事業が急成長3 |
ハピネット(7552) | グッズ・ライブ用ペンライト等 | 推し活消費の周辺需要を取り込む3 |
テック・新領域
銘柄名(コード) | 事業内容 | 特徴・強み |
---|---|---|
gumi(3903) | ゲーム・Web3 | 「推し活×Web3」トークン経済圏構築3 |
東京通信グループ(7359) | 推し活メッセージアプリ | アーティストとファンの双方向コミュニケーション支援3 |
イード(6038) | アニメ広告・情報サイト | アニメ特化のクロスメディア広告展開3 |
投資家へのポイント
- サンリオは推し活消費の強さと海外展開が際立ち、収益性も高い。
- 東映アニメーション、東宝、バンダイナムコHDなどはIP(知的財産)を多数保有し、映画・グッズ・イベントと多角的に収益化できる体制。
- エムアップHD、THECOOなどファンコミュニティ支援企業は、サブスクリプションモデルで安定成長が見込める。
- gumiのようなWeb3・トークン連動型ビジネスは、推し活の新潮流として注目。
- 市場全体としてエンタメ銘柄は景気変動に強く、推し活消費の粘着性が高い点も魅力13。
今後も推し活市場の拡大とともに、これらの銘柄は良好なパフォーマンスを期待できる有力候補といえるでしょう。