
昨今、金価格は史上最高値を更新し、3月下旬には一時1オンス3,080ドル前後まで上昇した。地政学的緊張や経済の不確実性を背景に「安全資産」として注目を集める金だが、この上昇トレンドにも終わりが来る可能性がある。モーニングスターのアナリスト、ジョン・ミルズ氏は今後5年以内に金価格が1,820ドルまで下落する可能性を指摘しており、これは現在の水準から38%もの下落を意味する36。今回は、好調な金相場に潜む下落要因について分析する。
経済の安定と成長がもたらす下落圧力
金価格が下落する主な要因の一つは、経済情勢の安定と成長だ。戦争や紛争、世界的な恐慌などの有事には安全資産として金の需要が高まるが、世界情勢や経済情勢が安定し継続的な経済成長が見込まれると、株式などのリスク資産の方がより多くのリターンを期待できる2。経済的な不安が和らぐと金への投資需要が減少し、価格下落の圧力となる16。
金利上昇による金の相対的魅力低下
金利環境も金価格に大きな影響を与える要因だ。銀行に現金を預けることで得られる利子は、各国の中央銀行が定める政策金利によって変動する。金利が高くなるほど得られる利子も増え、預貯金の需要が高まる2。一方、金は保有していても利子のようなインカムゲインは得られないため、金利上昇局面では金の相対的な魅力が低下し、価格下落圧力となる1016。
米ドル高の影響
金の国際的な取引には基軸通貨である米ドルが用いられており、米ドルと金価格の間には逆相関関係がある傾向が見られる。米ドルの価値が高まる局面では、安全資産としての金価格が下落することが多い2。米ドルが強まると、他国通貨を持つ投資家にとって金が割高になるため、需要が減少し価格が下落する傾向がある16。
供給増加による価格圧力
金価格の上昇により、金の採掘が活発化している点も注目に値する。供給が増加すると価格の押し下げにつながる。ワールド・ゴールド・カウンシルのデータによれば、近年金鉱採掘の収益性はますます高まっており、2024年第2四半期には金鉱業者の平均利益が1オンスあたり950ドルに達し、2012年以来最も高い収益を記録した6。
モーニングスターのミルズ氏は「収益性が高いことから、我も我もと金鉱山を開こうとしており、供給はますます増えるはずだ」と指摘している6。また、金価格の高騰によりリサイクル金の供給も増加が見込まれ、これも価格下落要因となりうる17。
一時的な売却圧力
市場環境の急変時には、一時的な要因による金価格の下落も起こりうる。4月7日には、株価急落により投資家が金融機関からのマージンコール(追加担保の差し入れ請求)への対応のため、金を売却する動きが見られた8。このような換金売りは短期的な価格下落をもたらす要因となる。
IMFやヘッジファンドによる大量売却リスク
国際通貨基金(IMF)やヘッジファンドなどの大規模な機関投資家による大量売却も、金価格の下落要因として挙げられる17。これらの機関が戦略的な資産配分の変更や利益確定のために大量の金を売却すれば、市場に供給過剰をもたらし、価格を押し下げる可能性がある。
インドなど主要消費国の需要減少
金の主要消費国であるインドの需要減少も、金価格の下落要因となりうる17。インドは世界最大の金消費国の一つであり、同国の経済状況や消費者行動の変化は、世界の金市場に大きな影響を与える可能性がある。
専門家の見解
多くの専門家は、長期的には金価格の上昇傾向が継続するとしながらも、その一部は短期的な調整の可能性も指摘している。「純金積立なら金価格の変動に合わせた購入が可能」として、価格変動を逆に投資機会と捉える見方もある2。
金投資の専門家は「大切な資産を守るためには、ひとつの投資商品に集中させるのではなく、複数の投資商品に分散させることが基本」と強調している2。
今後の見通し
直近では、4月3日のトランプ大統領による「解放の日(Liberation Day)」と称した大規模関税措置の発表を受け、金相場は乱高下した12。このような政策変更や経済指標の発表は、今後も金価格に影響を与え続けるだろう。
しかし、長期的な視点で考えると、「時間の経過とともに緩やかなインフレが進んでいくのはごく自然なことであり、実際に先進国の多くはインフレが継続してきた」という背景もある2。また、金は現物そのものに普遍的な価値が認められており、資産価値がゼロになるリスクは極めて低いとされている2。
今後の金相場は、世界経済の動向、主要中央銀行の金融政策、地政学的リスクなど、様々な要因に左右されると予想される。投資家は市場動向を注視しつつ、資産配分のバランスを慎重に検討することが求められている。
結論
好調を続ける金相場だが、経済の安定と成長、金利の上昇、米ドル高、供給増加など、複数の要因が重なれば下落に転じる可能性もある。短期的な変動を超えて、長期的な視点で金投資を位置づけることが重要だろう。