ドイツの「5人に1人が貧困」報道の実態:格差社会の深刻化が進む欧州最大の経済大国

欧州最大の経済大国とされるドイツで「国民の5人に1人が貧困状態にある」という報道がされています。複数の調査データをもとに検証してみると、この報道は概ね事実であることが確認できました。ドイツは表面上の経済的繁栄の陰で、深刻な所得格差と貧困問題を抱えています。

【ドイツ国民5人に1人が貧困状態か】投資制限で「中国に勝てない」時代遅れの経済モデル/橋は「ボロボロ」鉄道は「遅延ばかり」/エネルギー政策「ロシア依存が裏目」/移民流入で社会分断「極右政権も現実味」

統計が示す貧困の実態

2022年の東洋経済オンラインの報道によると、ドイツ連邦統計局が発表した調査結果では、ドイツ国民8080万人のうち20.3%、実に1620万人が貧困状態で暮らしていることが明らかになりました9。これは前年の19.6%よりも悪化しており、約5人に1人が貧困またはその危機に直面していることを示しています。

この調査では、「貧困危機」「食品や生活必需品の不足」「家計費僅少」の三つを軸に国勢調査が行われ、その結果として5人に1人という数字が導き出されています9

地域による格差

ドイツ国内でも貧困率には地域差があります。2020年のデータによると、特に北部ブレーメンでは貧困リスク率が24.9%(約4人に1人)に達しており、国内で最も高い水準となっています2。一方、バイエルン州やバーデン=ビュルテンブルク州といった南ドイツの州では比較的低い傾向にあります。

注目すべきは、旧東西ドイツ間の格差です。かつては旧東ドイツ地域に貧困率の高い地域が集中していましたが、近年は旧東ドイツ地域(ベルリンを除く)で貧困リスク率が低下する一方、旧西ドイツの全州とベルリンでは上昇傾向にあります2。これは地域経済の変化を反映していると考えられます。

低賃金労働の拡大

貧困状態の背景には、低賃金労働の広がりがあります。2022年4月の時点で、ドイツの雇用労働者の21%(約5人に1人)が低賃金分野に従事していることが連邦統計局の分析で明らかになっています12。低賃金労働者とは、国の賃金中央値の3分の2未満の金額で働く労働者を指し、約780万人がこれに該当します。

ドイツでは最低賃金の引き上げが議論されており、2022年1月時点の最低賃金である時給9.82ユーロから12ユーロへの引き上げが計画されています。この引き上げにより、低賃金分野労働者の92%が恩恵を受けると見込まれています12

特に影響を受けやすい世帯

貧困リスクが特に高いのは、ひとり親世帯と子どものいる世帯です。2013年の調査によると、債務相談窓口を訪れた多重債務者の14%がシングルマザーで、この数値は全人口に占めるシングルマザーの割合の2倍以上でした10

子どもの貧困も深刻な問題となっています。2013年の時点ですでに、ドイツの子どもの11%が貧困層に属していました10。また、2022年の記事によれば、子どもの貧困率はここ30年で二倍以上上昇していると報告されています2

エネルギー貧困の新たな課題

近年、新たな問題として「エネルギー貧困」が浮上しています。欧州では支出の10%以上が電気、ガス、燃料費に当てられる家庭をエネルギー貧困と定義していますが、エネルギー危機前はEUのエネルギー貧困層は10%以下でした13。しかし、ロシアによるウクライナ侵攻後のエネルギー価格高騰の影響で、2022年11月にはドイツの世帯のエネルギー支出が年間約8000ユーロ(約128万円)に達し、2024年時点でもエネルギー貧困に相当する世帯は44%と報道されています13

新型コロナとインフレが追い打ち

2020年以降の新型コロナウイルスの流行と、その後のインフレーションも貧困状況を悪化させる要因となっています。2025年2月の報道によると、ドイツ国内のフードバンク(無償食事提供活動)の利用者が激増し、各地で入場を制限する事態に陥っています11

都市財政の悪化も懸念材料

貧困問題に対応すべき自治体の財政状況も悪化しています。2025年2月のロイターの報道によると、ドイツの都市自治体の全国組織が公表した調査では、低成長と社会保障支出の増大により、多くの都市が財政赤字に陥る見通しです3。都市の社会保障支出は昨年12%も急増し、児童と若者の福祉コストは過去10年で倍増しています3。こうした状況は、貧困対策に取り組む自治体の能力を制限することになりかねません。

ハルツ改革の光と影

ドイツの貧困問題は、2005年に導入された「ハルツⅣ」と呼ばれる労働市場改革とも深く関わっています。この改革は失業率の改善に貢献した一方で、長期失業者が手当を受給する割合は横ばいもしくは減少しており、改正への議論が活発化しています2

結論:経済大国の陰の部分

「ドイツで国民5人に1人が貧困状態にある」という報道は、複数の統計データから裏付けられる事実と言えます。世界でもトップクラスの経済大国であり、EUを牽引するドイツにおいて、このような高い貧困率が存在することは、経済的成功の陰で社会の分断が進んでいることを示しています。

貧困の拡大は、単なる経済問題にとどまらず、社会の安定や民主主義にも影響を及ぼす可能性があります。実際に、経済低迷や社会格差の拡大は、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持拡大などの政治的変化にもつながっています7。今後、ドイツがこの貧困問題にどう取り組むかは、同国の社会的結束と政治的安定にとって重要な課題となるでしょう。

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