
BofAグローバル・リサーチの最新調査によると、2月以降の米国株売却ペースが過去最高を記録する中、ファンドマネジャーたちは米国株からの資金引き揚げを加速させている。この動きはトランプ大統領による予想を上回る高水準の相互関税発表が引き金となり、「トランプ・ショック」と呼ばれる世界同時株安を引き起こした。
過去最大規模の資金流出が進行
BofAグローバル・リサーチが4月15日に発表した月例ファンドマネジャー調査によると、米国株への配分は現在ネットで36%のアンダーウエートとなっており、これは過去2年近くで最大の水準だ1。さらに2月以降、米国株配分は53%ポイント低下しており、この下落幅は過去最大規模となっている1。
「記録的な数のファンドマネジャーが米国株への配分を引き下げる方針を示しており、今後もこうした傾向が続く可能性が高い」と同調査は指摘している1。
この調査は運用資産総額3860億ドルを管理する164人のファンドマネジャーを対象に実施された1。
ヘッジファンドとETFによる大規模な株式売却
トランプ大統領が4月初旬に発表した相互関税は、市場関係者の予想をはるかに超える内容だった。これに対して、世界のヘッジファンドとレバレッジ型上場投資信託(ETF)は一気に400億ドル(約60兆円)余りの株式を売却したとみられる38。
JPモルガンの顧客向けノートによると、市場のボラティリティーに応じて投資を調整するポートフォリオは、リスク低減のため数日中に250億〜300億ドルの株式を売却する見通しだという38。レバレッジ型ETFもハイテク株を中心に230億ドル規模の売却が必要とされた38。
ゴールドマン・サックスの分析では、ロング・ショート戦略を採用する世界中のヘッジファンドが、過去約15年で最大規模の売却を行ったことが判明した38。特に金融株の売却ペースは2016年以来で最速という記録的なスピードだった38。
「ヘッジファンドが最も多く売ったのは米国株であり、買い越されたのは景気後退期に比較的堅調に推移する傾向がある不動産、一般消費財、公益セクターだけだった」とゴールドマン・サックスは報告している38。
米国の景気後退懸念が投資家心理を圧迫
市場の動揺が続く中、大多数のファンドマネジャーが市場の最大のリスクとして、世界的な景気後退を引き起こす貿易戦争を挙げている1。世界的な景気後退を予想したファンドマネジャーはネットで42%に達し、これは2023年6月以降で最も多く、過去20年間で4番目に高い水準となった1。
米国経済への見方も急速に悲観論に傾いており、73%のファンドマネジャーが「米国例外主義」というテーマがピークを過ぎたと回答している1。これは、長年米国株を支えてきた米国経済の相対的優位性に対する信頼が大きく揺らいでいることを示している。
急転直下のV字回復、しかし警戒感は継続
こうした厳しい市場環境の中、トランプ大統領は4月9日に予想外の発表を行った。中国以外の貿易相手国に対する関税を突然一律10%に引き下げ、90日間の猶予期間を設ける方針を明らかにしたのだ13。
この発表を受け、市場は劇的な反転を見せた。ナスダック100は12%の急騰を記録し、S&P500も9.52%上昇して2008年のリーマン・ショック以来最大の上昇率となった13。時価総額ベースでは、4月2日から8日までの6営業日で米国上場株式は7.7兆ドルを失ったが、その後わずか1日で5.1兆ドルを取り戻すというV字反転を示した13。
4月14日の米国株式市場でもダウ平均は続伸し、トランプ大統領が自動車と部品に対する関税について一時的な適用除外の可能性を示唆したことで楽観論がさらに高まっている16。また、スマホやその他のハイテク製品に対する関税の除外措置も伝えられている16。
投資家の警戒感は続く
しかし、市場参加者の間では依然として慎重な見方が強い。S&P500は2月の高値からの下落率が約11%に縮小したものの16、市場の不確実性は高いままだ。ファンドマネジャーの61%がドルは今後1年で下落するとの見方を示しており、これは2006年5月以降で最多の割合となっている1。
金融専門家の間では、これまで主流だった「米大手ハイテク株」への集中投資から、「金のロング」に最も取引が集中するという投資姿勢の大きな変化も見られる1。これまでは24カ月連続で米大手ハイテク株との回答が寄せられていたが、今回の調査では49%が「金のロング」に最も取引が集中していると答えた1。
今後も米国の通商政策と世界各国の対応次第で、米国株は大きく変動する可能性が高い。市場参加者は引き続きトランプ政権の動向を注視している。
世界経済と投資戦略への影響
専門家は、今回の関税政策が単なる貿易摩擦の再燃に留まらず、第二次世界大戦後の自由貿易体制そのものを揺るがしかねない構造的な問題を孕んでいると警告している10。関税の詳細、対象国・品目の広がり、そして各国の報復措置の連鎖が今後の市場を左右する重要な要素となるだろう。
JPモルガンは米国や世界の景気後退入りの確率を40%から60%に引き上げ、トランプ政権の政策の影響は報復関税や米国の景況感の低下、サプライチェーンの混乱を通じて拡大する可能性が高いとしている5。
一方、Rathbonesのような投資会社は、このような環境下では「より保守的な資産配分」が望ましいとしながらも、「悲観的になりすぎることも可能」と警告している12。