トランプ関税の嵐の中で輝く金投資 ―ドル資産からの「パラダイムシフト」が背景に

米中関係の緊張と世界経済への懸念が高まる中、金価格が記録的な高値を更新し続けている。トランプ政権の関税政策が市場に動揺をもたらす一方で、安全資産としての金への投資は拡大を続けており、一部の専門家はこれを単なる一時的な現象ではなく、グローバル金融市場における「パラダイムシフト」の兆候だと指摘している。

NISAで買う金(ゴールド)関連銘柄[2025年4月版](吉田 哲)【楽天証券 トウシル】

金価格高騰と資金流入の加速

国際的な金の調査機関である世界ゴールドカウンシル(WGC)の最新データによると、金を裏付け資産とした上場投資信託(ETF)への資金流入が急増している。特に注目すべきは中国市場の動向だ。WGCのシニア市場アナリスト、ジョン・リード氏によれば、中国の金ETFは4月の最初の11日間だけで29.1トンの保有量増加を記録し、第1四半期全体の増加量23.5トンを既に上回った1

さらに、米国の上場ETFも4月に入り27.8トンの増加を見せたが、中国のETFの増加ペースには及ばなかった1。この急速な資金流入を背景に、金価格は年初から22%上昇し、4月14日には1オンス当たり3,245.42ドルと過去最高値を更新した1

金取引の中心地であるニューヨーク市場では、4月11日に金の先物価格が1トロイ・オンスあたり3200ドルを超え、今年に入ってからの上昇率は23%に達している11。3月13日に初めて3000ドルを突破して以来、わずか1ヶ月程度でさらに200ドル以上も値を上げる異例の展開となっている。

「関税はきっかけに過ぎない」—専門家が指摘する本質的要因

トランプ政権の関税政策が世界的な株安の引き金になったことは間違いないが、複数の金融専門家はこれを表面的な現象に過ぎないと指摘している。

投資アドバイザーのエゴン・フォン・グライアーツ氏は「関税は市場が下落している理由ではない。それはきっかけに過ぎない。上がりすぎた市場が崩壊するにはいつもきっかけが必要だ」と分析している2。同氏は「それがたまたま関税だったが、そうでなければ銀行の破綻か、何か別の政治的なニュースだったかもしれない」と付け加えた2

世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏も同様の見解を示している。「単に関税のせいではない。資本市場で起きていたことを考えるべきだ。負のサイクルが始まりかけていた」とBloombergのインタビューで語った4

ドル資産からの資金逃避—構造的問題の顕在化

金価格上昇の背景には、米国の財政問題とドル資産からの資金逃避という構造的な問題がある。従来、米国債は金と同様に安全資産として取引されてきたが、この相場の混乱の中で異例の動きを見せている。

ダリオ氏は「国債の価格が下がり、ドルが下落し、そして金価格が上がっている場合、それは資本市場のパラダイムシフトを物語っている」と指摘している4。さらに「ドルと米国債が下がっていて、金価格が上がっているのだから、その意味は明らかだ。ドル資産からゴールドに資金が逃避している」と述べている4

フォン・グライアーツ氏も「ゴールドの価値が上がるわけではない。単にその購買力を維持するだけだ。だから価値のなくなる通貨で価値を計算すれば、金価格が上がっているように見える」と分析している2

アメリカではコロナ後の金利上昇により莫大な政府債務に多額の利払いが発生しており、米国政府は米国債の利払いを新たな米国債の発行により賄う自転車操業を続けている2。これが新規の米国債の発行過多を招き、国債の買い手不足の問題を引き起こしているという構造的な問題が表面化し始めている。

金投資の特性と今日的価値

金は株式や債券と違って利息や配当を生まないという特性がある11。しかし、国や企業といった特定の発行者がおらず、有事の際にも無価値となるリスクがないとされる11。このため、政治や経済の先行きへの不透明感が強まると資金の退避先として購入されやすい特性を持つ11

WGCのリード氏も「金はしばしば、地政学的および経済的リスクをヘッジする手段として利用される」と指摘している1。米中間の高関税措置の応酬は先行きの不透明感を生じさせており、それが金価格上昇の一因となっていると分析されている1

中国国内では、金の国際価格に対する「プレミアム」が前週にロンドン価格の1%に達し、前々週の0.2%から上昇した1。ディーラーによる実際の販売価格には、24ドルから54ドルの上乗せが見られる状況となっている1

個人投資家の冷静な対応

株価の乱高下にもかかわらず、日本の個人投資家は比較的冷静な判断を示している。三井物産デジタル・アセットマネジメントが4月8〜9日に実施した調査によれば、今後の資産運用の方針について「運用額を増やす」、「現状維持」、「資産配分の見直し」が半数を占め、「運用額を減らす」と回答したのは約5%にとどまった7

調査の前日には、東京株式市場の日経平均株価が過去3番目に大きな下落幅を記録するなど、トランプ関税による不安が広がっていたが、急激な株価の下落にもかかわらず、資産を急いで売却して損失を確定する投資家は少なかったとみられる7

金投資は本当に「唯一の答え」なのか

金価格の上昇と金ETFへの資金流入の増加は、不安定な市場環境の中で金が安全資産としての役割を果たしていることを示している。しかし、専門家の分析は、この動きが単にトランプ関税への一時的な反応ではなく、より根本的な経済構造の変化を反映している可能性を示唆している。

フォン・グライアーツ氏は、これを「通貨のサイクルの終わり」と表現し、1945年から世界の基軸通貨であり続けたドルおよびドル建て資産の下落トレンドが始まると予想している2。さらに同氏は「これは史上最大の資金の移動になるだろう。これは世界的な現象であり、多くの人が大金を失うことになる」と警告している2

ダリオ氏も著書『世界秩序の変化に対処するための原則』で、アメリカの覇権が終わり、ドルが基軸通貨としての地位を失うことを予言している4。このような長期的な視点から見れば、金への投資は単なる一時的な避難先ではなく、変化する世界経済秩序への対応策としての側面も持つことになる。

結論:複合的視点の必要性

金投資が注目を集めている背景には、トランプ関税という表面的な要因だけでなく、米国の財政問題やドル資産からの資金逃避という構造的な問題がある。金が安全資産としての特性を持ち、不安定な市場環境下で価値を維持する可能性は高いが、これを「唯一の答え」と考えるのは短絡的かもしれない。

バランスのとれた投資戦略においては、金を含む多様な資産への分散投資が重要であり、市場の混乱に際しても冷静な判断が求められる。トランプ関税の嵐は、金投資の価値を再確認させると同時に、グローバル経済の構造的変化について考える機会を投資家に提供しているのである。

タイトルとURLをコピーしました