トランプ政権の「安定装置」:スコット・ベッセント財務長官の素顔

トランプ政権で米国経済の舵取りを担う第79代財務長官スコット・ベッセント氏(62)は、華麗な投資家としてのキャリアと政治的な忠誠心が評価され、2024年11月に指名された人物である。金融市場との関係構築や保護主義政策の調整に期待が寄せられる中、その経歴と人柄を探る。

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投資界のエリートからトランプ政権の重鎮へ

サウスカロライナ州出身のベッセント氏は、イエール大学卒業後、アメリカ最古の投資銀行の一つであるブラウン・ブラザーズ・ハリマンでキャリアをスタートさせた2。その後、金融界で名を馳せ、1991年には著名投資家ジョージ・ソロスが率いるソロス・ファンド・マネジメント(SFM)に入社4。1992年には、イギリス・ポンドの下落を見込んだ大胆な投資戦略で10億ドル以上の利益を会社にもたらし、金融界で一躍注目を集めた4

「ベッセント氏は世界屈指の国際投資家および地政学・経済戦略家の一人として広く尊敬されている」と、トランプ前大統領は財務長官指名時にソーシャルメディアで評している2

2015年に自身の投資ファンド「キー・スクエア・キャピタル・マネジメント」を設立し、2017年末までに資産規模を51億ドルにまで成長させた実績を持つ4。特に2013年には円安に賭けた投資戦略で大きな成功を収めており、日本経済との関わりも深い24

政策観とトランプ政権での立ち位置

ベッセント氏は、前回のトランプ大統領選では早くから支持を表明し、経済政策の指南役も担った5。「アメリカ・ファースト・アジェンダの強力な支持者」と評されるが、金融市場では他の候補者よりも「ハト派」として知られ、変革よりも市場の安定を重視する姿勢があるとの見方が強い23

トランプ政権が掲げる一律追加関税策については、当初は物価上昇を懸念して慎重な姿勢を見せていたが、後に支持に転じた経緯がある5。ただし、関税政策について「必ずしも関税の大幅引き上げを決めているわけではない」と説明し、「交渉の道具」として位置づける現実的な見解も示している2

規制緩和や減税を通じた経済成長を重視するサプライサイド経済学の支持者であり、トランプ前大統領の減税措置が予定通り失効しないようにすることを最優先事項と位置づけている25。「もし失効すれば、アメリカ史上最大の増税になる」と警告する発言からは、減税政策への強いこだわりがうかがえる2

デジタル経済への積極姿勢と個人的背景

ベッセント氏が特に注目されるのは、暗号資産産業への強い支持姿勢である。「暗号通貨は自由を意味する」との発言に代表されるように、暗号通貨を公然と擁護する初の米財務長官となり、トランプ政権が掲げる「暗号通貨の地球首都」構想の象徴的存在となっている2

私生活では、2011年に元ニューヨーク市検察官の夫と結婚し、2人の子供がいる2。地元サウスカロライナ州では慈善活動家としても知られ、家族とのつながりを大切にする人柄が伝えられている2

橋渡し役としての期待と課題

財務長官として、ベッセント氏には税制や公的債務、国際金融、制裁措置など広範な分野での監督権限が与えられている2。対米外国投資委員会(CFIUS)のトップも兼ねる見込みであり、日本製鉄によるUSスチール買収計画など、国際的な企業買収の審査にも大きな影響力を持つとされる5

市場関係者からは、トランプ政権とウォール街の「橋渡し役」としての役割が期待されており、極端な関税引き上げや貿易摩擦激化の可能性を抑制する存在になるとの見方もある35

緊張が高まる米中関係や財政赤字問題など、山積する課題に対して、投資家としての鋭い洞察力と政治的バランス感覚がどのように発揮されるか、世界経済の行方を占う上で注目されている。

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