
アメリカのトランプ政権は15日、ハーバード大学が政府の要求を拒否したことを受け、同大学への助成金22億ドル(約3200億円)と複数年契約の6000万ドルの凍結を発表しました。両者の対立は、大学の自治と連邦政府の介入権限をめぐる原則的な問題に発展しており、全米の高等教育機関に波紋を広げています。
対立の経緯と政府の要求
トランプ政権は反ユダヤ主義への対応が不十分だとする大学に対し、「政策を変更しなければ助成金を削減する」などと警告してきました23。ハーバード大学に対しても、多様性を重視するプログラム(DEI:多様性・公平性・包摂性)の廃止や反ユダヤ主義とされる活動をした学生への処分強化、学生の監視体制強化などを要求していました1314。
教育省は「ユダヤ人学生への嫌がらせは容認できない」とする声明を出し、「エリート大学は意義のある改革に取り組むべき時だ」と主張しています13。政権側は約90億ドル(約1.3兆円)の助成金継続の条件として、これらの要求への対応を迫っていました14。
ハーバード大学の反発と拒否声明
ハーバード大学のアラン・ガーバー学長は14日、学内コミュニティへの手紙で、ホワイトハウスから送られてきた「新たな要求リスト」について説明し、政府からの要求を受け入れない旨を表明しました1215。
ガーバー学長は「我々は独立性や憲法上の権利を放棄することはない」と強調し、「反ユダヤ主義と闘う責任を軽視していない」としつつも、「政権の方針は連邦政府の権限を越えている」と指摘しました1215。また、「どの政党が政権を握っているかにかかわらず、私立大学が何を教えるか、誰を受け入れるか、どの分野の研究をするかについて、政府が指示するべきではない」と強く反発しています14。
さらに大学側は、助成金の打ち切りは「我が国の経済的安定や活力を危険にさらすことになる」と懸念を示しました14。
政治的背景と他大学の対応
トランプ政権はエリート大学を「左派の牙城(がじょう)」と位置づけ、助成金を武器に露骨な圧力をかけていると指摘されています16。第2次トランプ政権発足後、イスラエルへの抗議デモなどを理由に「反ユダヤ主義的」「行き過ぎたDEI」といった理由を掲げ、エリート大学への攻撃を進めてきました16。
一方で、コロンビア大学は既にトランプ政権の条件を受け入れており、大学によって対応が分かれています1516。CNNによれば、ハーバード大学は「政権の要求に抵抗した初めての名門校になった」と報じられています14。
学問の自由への懸念と影響
この対立は単なる助成金問題ではなく、米国の大学教育や学問の自由が深刻な脅威にさらされているとの危機感を広げています16。ニューズウィーク日本版によれば、「思想狩り」とも表現される今日の状況の中で、米名門エール大学の著名な教授3人が「格下」のカナダ・トロント大学に移籍するという衝撃的な動きも報じられています4。
また、学術界の不満分子に対するトランプの締め付けも強まっているようで、学界に出席予定のフランス人研究者がトランプ批判を理由にアメリカの空港で入国を拒否されたという報道もあります(トランプ政権は強く否定)4。
分断社会の縮図
この対立の背景には、米国における深い社会分断があります。米国では学歴が共和党と民主党の支持者を分断する主要な対立軸となっており、トランプ大統領や支持層が、大学で急進的な左傾化が進んでいるとみて反感を強めているという事情があります16。
ハーバード大学とトランプ政権の対立は、単なる個別事例ではなく、アメリカ社会の二極化を象徴する出来事として注目されています。今後、他の大学がどのような対応を取るのか、また政権の圧力がさらに強まるのかが注目されます。
今後の展望
現時点でハーバード大学は政府の要求を拒否する姿勢を崩していませんが、巨額の助成金凍結は大学運営に大きな影響を与える可能性があります。両者の対立が政治的・法的な争いに発展する可能性も高く、今後の動向が注目されます。
一部の専門家は、この問題が裁判所に持ち込まれる可能性も指摘しており、大学の自治と連邦政府の権限のバランスについて、法的な判断が下される可能性もあります。