
第二次トランプ政権がアメリカの主要な対外援助機関である国際開発庁(USAID)の解体計画を急速に進めている。トランプ大統領は同機関を「急進的な左翼の狂人たち」が運営する「詐欺組織」と非難し、イーロン・マスク氏も「犯罪組織」と呼んで閉鎖を主張。この動きは「America First」政策の象徴とも言える一方、世界各地の援助受給者や国際社会に大きな波紋を広げている。
急速に進む解体計画
トランプ政権は2月23日、USAIDの職員約1600人を削減し、残りの大半の職員にも休暇に入るよう指示した7。政権は1万人以上のUSAID職員を約600人にまで絞り込む計画だと報じられており1、事実上の解体作業が進行している。
1961年に設立されたUSAIDは約130の国・地域で事業を展開し、年間400億ドル以上の予算を管理する米国の主要な対外援助機関だ1。トランプ大統領はUSAIDを国務省と統合する計画を進めており、2月上旬にはUSAIDの公式サイトが一時アクセス不能となり、職員は庁舎に入らないよう指示された1。
敵視の背景
トランプ大統領がUSAIDを敵視する背景には複数の要因がある。まず「ムダが多く、納税者の負担に見合わない」という主張がある3。政権はコロンビアのトランスジェンダー・オペラ公演支援や途上国の産児コントロール支援などを例に挙げ、これらを「ムダ」と批判している3。
基本的には「トランプやマスクの価値観に合わないもの(多様性、ジェンダー平等、温暖化対策など)が支援対象になっている」ことが問題視されており3、効率性やコストパフォーマンスというより、イデオロギー的な対立が鮮明だ。
また、トランプ政権はUSAIDが「メディアをコントロールしてきた」とも批判している3。ホワイトハウスは「USAIDのムダと乱用に関するリスト」を公開し、トランプ大統領は「急進的な左翼の狂人たち」が運営するUSAIDによる「とてつもない詐欺」が横行していると非難した4。
マスク氏の関与と手法の異例さ
注目すべきは、政府効率化省(DOGE)を率いるイーロン・マスク氏の強い関与だ。マスク氏はUSAIDを「邪悪」で「犯罪組織」と呼び、「閉鎖する」と明言している64。
マスク氏が率いるDOGEは公式な政府機関ではないにもかかわらず、USAIDへの強い影響力を行使。「DOGEキッズ」と呼ばれる若いエンジニアたちがUSAIDの機密情報にアクセスすることを防ごうとしたUSAIDのセキュリティ責任者2人は休職扱いになった6。この状況について「歴史上に類を見ない異常事態」との声もある6。
国際社会への影響
USAIDの閉鎖は国際社会に大きな影響を与えると懸念されている。USAIDは人道支援、経済開発、保健事業など途上国を中心に様々なプログラムを展開してきた1。
特に深刻なのはアフリカでの影響だ。南アフリカだけでも、PEPFAR(米国大統領エイズ救済緊急計画)を通じて、HIV/AIDSと共に生きる780万人の南アフリカ人への支援が危機に瀕している5。また、USAIDはウクライナへの支援も行っており、その閉鎖はウクライナにとって重大な打撃となる6。
違法性を巡る対立
民主党議員たちはUSAIDに対するトランプ政権の動きを「違法で憲法違反」と批判している4。クリス・ヴァン・ホーレン上院議員は「この国の敵にとってまたとない贈り物だというだけでなく、これはただひたすら違法だ」と非難した4。
すでにUSAID職員や請負業者らは、トランプ政権に対する法的訴訟の準備を進めていると報じられている11。批判者たちは、トランプ政権の行動は「前例のない連邦政府機関への敵対的な乗っ取り」だと主張している2。
援助の政治化
専門家は、トランプ政権のUSAID解体計画が「援助の政治化」を象徴していると指摘する。「America First」を掲げるトランプ政権にとって、国際協力よりも自国の利益を優先する姿勢がUSAID敵視に表れている10。
ただし皮肉なのは、第一次トランプ政権時代(2017-2021年)にUSAIDがトランプ政権を支えた事実は「都合よくスルーされている」点だ3。例えば、当時USAIDはイエメン内戦の被害者への人道支援を提供していたが、その内戦ではトランプ政権がサウジアラビアへの武器売却に最も熱心だった経緯がある3。
今後、USAIDの閉鎖をめぐる法的訴訟や議会との対立が続く見通しだが、トランプ政権が「急進的な左翼」と見なす組織への攻撃は、第二次トランプ政権の特徴的な政策となりつつある。