アメリカ議会 直近1週間の主要動向解説(2025年4月9日)

直近1週間、アメリカ議会では歴史的な演説から重要な予算決議まで、注目すべき出来事が相次いで発生しました。今回は2025年4月初旬のアメリカ議会の動向を包括的に解説します。

史上最長演説でトランプ政権を批判 ブッカー上院議員の25時間マラソン演説

米上院で25時間超え演説 反トランプ議員 最長記録(2025年4月2日)

先週最大の話題は、民主党のコーリー・ブッカー上院議員(ニュージャージー州選出)が4月1日から2日にかけて行った史上最長の演説でした。ブッカー議員は25時間5分にわたり、一切の休憩なしでトランプ政権を批判する演説を続け、1957年に公民権法に反対するために行われたストロム・サーモンド議員の24時間18分という従来の記録を更新しました1114。→参考:1957年公民権法におけるストロム・サーモンドの議事妨害

この驚異的な持久力の背景には周到な準備がありました。ブッカー議員は演説前の数日間を絶食し、前夜は水分摂取も控えていたとのことです。演説中もコップ2杯の水しか口にせず、足のけいれんに苦しみながらも演台を離れることなく演説を続けました616

ブッカー議員は演説の中で、「トランプ政権が『無謀にも』民主制度に挑戦し『憲法に違反』している」と主張し、トランプ大統領と側近のイーロン・マスク氏による連邦政府機関の解体を強く批判しました11。また、「民主党(左)か共和党(右)かではない、正しいか誤りなのかの問題だ」と訴え、政治的分断を超えた道徳的判断を国民に求めました8

歴史的意義と政治的メッセージ

この演説が特に注目されるのは、人種差別主義者と評されるサーモンド議員の記録を黒人議員が破ったという象徴的意味合いです。ブッカー議員自身も「サーモンド氏の演説に関わらず私はここ(上院)にいる。彼も強力だったが、それ以上に国民が強力だったからだ」と歴史の皮肉を指摘しています6

この演説は議事妨害(フィリバスター)ではなく象徴的抗議であり、民主党支持者の間で高まる不満の表出と見られています。トランプ政権が同盟国に貿易戦争を仕掛け、連邦政府職員の削減を進める中、民主党支持者の怒りは共和党議員だけでなく、効果的な対抗策を打ち出せない民主党指導部にも向かっているとの分析があります11

トランプ減税延長へ前進 上院が予算概要を可決

もう一つの重要な動きは、4月5日に米上院が可決した予算概要です。上院は51対48の賛成多数で、トランプ大統領が2017年に導入した大規模減税の延長や、連邦政府の大幅な歳出削減を目指す予算概要を承認しました5

この決定により、共和党は「財政調整措置」と呼ばれる手法を利用して上院の議事妨害(フィリバスター)を回避し、トランプ政権が提唱する減税政策や国境警備の強化などの主要政策を通過させることが可能になります5

共和党のグラム上院予算委員長は「上院は財政調整措置に向けての大きな一歩を踏み出し、減税の恒久化、環境保全、国境の安全、連邦政府の無駄を削減するための大きな一歩を踏み出した」とコメントしました。一方、共和党内からもスーザン・コリンズ氏とランド・ポール氏は反対票を投じており、党内の完全な一致には至っていません5

財政への影響と今後の展開

この予算概要に含まれる政策が実施されれば、政府の債務は今後10年間で約5兆7000億ドル増加すると予測されています。ただし、上院の共和党は年末に期限が切れる減税を延長する措置の影響は考慮すべきではないとし、コストは1兆5000億ドルにとどまると主張しています5

民主党は、この予算案が減税による歳入減の一部を相殺するために歳出削減を目指しており、メディケア(高齢者向け医療保険)に対する危険をもたらすと警告しています5。また、予算案には連邦債務の上限を5兆ドル引き上げる計画も含まれており、議会は夏までに連邦債務上限の引き上げを行う必要があります5

通年つなぎ予算法案を巡る攻防と政府閉鎖のリスク

少し時期は遡りますが、3月11日に米下院は2025会計年度(2024年10月~2025年9月)を通じた通年つなぎ予算法案を賛成217、反対213で可決しました2。この法案はほぼ共和党議員の票のみで可決され、民主党から1人が賛成し、共和党から1人が反対に回るという党派色の強い投票となりました。

この法案は非国防予算を約130億ドル削減する一方、国防予算は約60億ドル増額するもので、予算の具体的配分については行政府の裁量が大きくなります2。下院共和党の財政保守派(フリーダムコーカス)はこれを「トランプ政権が予算の無駄、不正、乱用を発見し、排除するための行政府による重要な仕事を継続できるようになる」と評価している一方、民主党は「イーロン・マスク氏とドナルド・トランプ大統領が米国の家庭や企業から資金を盗むことを加速させる」と激しく非難しています2

中国の対米関税引き上げとAP通信の取材制限問題

【アメリカ】米「相互関税」第2弾、午後1時過ぎに発動へ 中国には104%の関税/マスク氏 トランプ大統領に新たな関税政策の撤回を直訴 米メディア── 国際ニュースライブ(日テレNEWS LIVE)

直近では、中国が対米報復関税を84%に引き上げると発表し、トランプ政権との貿易摩擦が一段と激化しています10。この動きは、トランプ大統領が中国にさらに50%の関税をかけると脅した発言への対抗措置と見られています13

また、報道の自由に関わる重要な判断として、米裁判所がAP通信に対する取材禁止措置に仮差し止め命令を出しました1013。この判断は、メディアの取材活動と表現の自由に関する憲法上の権利を保護する重要な先例となります。

今後の見通し

トランプ政権下での議会は明確に共和党優位で進んでいますが、民主党側の抵抗も激化しています。ブッカー議員の歴史的演説は象徴的なものでしたが、実際の政策決定においては共和党が主導権を握っています。今後は、減税政策の恒久化やメディケアなどの社会保障制度の扱い、債務上限引き上げなどの重要課題について激しい議論が予想されます。

特に財政問題については、債務上限の引き上げを夏までに行う必要があり、この問題が再び政治的な対立点となる可能性があります。また、年末に期限切れとなるトランプ減税の取り扱いについても、与野党間での激しい攻防が予想されます。

日本を含む同盟国にとっては、対中国政策や貿易政策の動向に引き続き注視が必要です。特に貿易摩擦の激化は世界経済全体に影響を及ぼす可能性があり、今後の議会での議論や決定が国際関係に与える影響も無視できません。

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