「安全資産」米国債に異変、金利急騰に市場動揺:トランプ関税政策が新たなリスク要因に

米国債市場で先週、金利の急激な上昇が発生し、金融市場に大きな動揺をもたらした。通常は株価下落時に「安全資産」として買われるはずの米国債が売られるという異例の事態となり、10年国債利回りは4.58%まで上昇。20年債と30年債に至っては5%の大台に達する局面も見られた4。この急激な金利上昇がトランプ大統領の相互関税政策の一時停止という政策転換を促す要因となったとされている。

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「米国売り」加速、安全資産の地位が揺らぐ

4月初旬にトランプ大統領が広範な相互関税の詳細を発表して以降、金融市場は激震に見舞われた。特に異例だったのは、株価が急落する中で通常であれば買われるはずの米国債が売られ、金利が急上昇したことだ。4月4日までは従来の法則に沿って投資家が株式を売却し国債を購入する動きが見られたが、4月7日以降に異常事態が発生。株価下落にもかかわらず国債が売却され、10年物米国債利回りは一時4.5%を超える事態となった7

この動きについてIG証券のアナリストは「現在の米国市場は、トランプ関税によるスタグフレーションの懸念が強く意識される状況にある」と指摘。「本来であれば、景気の先行き懸念は安全資産である米債買いの需要を高める要因であるが、先週の市場では突如として米国債が売られ金利が上昇した」と異例の状況を解説している4

金利急騰の背景、ヘッジファンドの換金売りか中国の報復か

市場関係者の間では、この急激な金利上昇の要因についていくつかの見方が出ている。フランクリン・テンプレトンのアナリストは「テクニカルな要因による売りを反映したものであり、証拠金不足(マージンコール)に直面したどこかの機関投資家による強制的な売却によって拍車がかかった可能性がある」と分析している3

また、株価急落に伴い、ヘッジファンドなどのプロ投資家が損失を補填するために国債を売却したという見方も強い。テレビ東京の特集番組では、「米国債保有率がかつての数パーセントから2024年に10%まで増えたヘッジファンドに注目が集まっている。株の暴落により資金繰りを迫られたヘッジファンドが米国債売りを余儀なくされた」と報じている8。

一方で、中国などの外国勢が米国債を売却しているのではないかとの観測も浮上している。バンク・オブ・ニューヨーク・メロンのマクロストラテジスト、ジョン・ベリス氏は「報復措置として可能性があるものの一つとして、米国債の購入を控えることが考えられる」と指摘。「恐らく、売却よりも購入しないという選択をする可能性の方が高いだろう」と述べている6

トランプ政権、金利急騰で政策転換を余儀なくされる

この国債市場の混乱はトランプ政権の政策にも影響を与えた。NHKは「この異常な金利の上昇がトランプ大統領が相互関税を90日間停止する決断を下す重要な要因となった」と報じている7

日本経済新聞も「米国債の投げ売りに伴う金利急騰に慌てたトランプ米政権が相互関税の一部を停止し、いったん落ち着いたかにみえた市場の安定は早くも崩れた」と伝えており、トランプ政権の「朝令暮改の政策が生む不確実性や信認の低下がマネーの米国離れを誘っている」と指摘している9

今後の見通し、底打ちの兆しも

このような混乱が続く一方で、JPモルガン・アセット・マネジメントは米国債市場が底打ちした可能性があるとの見方を示している。同社の債券世界責任者ボブ・マイケル氏は「価格はここが底で利回りはピークを付けたとかなり確信している」と述べ、「当社が対話した限りでは、海外投資家は米国債から手を引こうとはしていない」と説明している2

モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントのクロスアセットソリューションズ担当最高投資責任者ジム・カロン氏は、外国勢が米国債保有を減らすことは「可能だが、非常に自滅的な行動だ。とんでもないほどのコストがかかるだろう」と指摘している6

年内の米政策金利については、FRB当局者の2025年末の予想中央値は3.4%と断続的な利下げが想定されている5。これに伴い長期金利についてもレンジの低下が予想されるが、景気が堅調であれば金利低下は緩やかなものにとどまる可能性がある。複数のアナリストは2025年の米長期金利のレンジを3.5%~4.5%と予想している5

今後はトランプ政権の政策が物価を押し上げるのか景気を停滞させるのかが注目されるが、焦点は関税や移民政策の行方とそれに対する市場の反応だ。一部のアナリストは「リスクシナリオは堅調な経済が持続するなかで、関税や移民政策がインフレ期待の高まりにつながるケース」とし、その場合「金融政策は利下げ停止の一方で、市場では利上げの織り込みも始まり、長期金利は5%に向かう」と警戒感を示している5

債券市場の不安定さが続く恐れも

米国債市場の不安定さを示すMOVE指数は8日に139.88まで上昇し、2023年10月以来の水準に達した4。これは債券市場のボラティリティ拡大を警戒する市場心理を示唆している。

ロイターの報道によれば、トランプ政権下での「政府効率化省(DOGE)」による政府職員の大量解雇による労働市場への影響や消費への打撃も懸念されている1。ジャニー・モンゴメリー・スコットのチーフ債券ストラテジスト、ギー・ルバ氏は「短期的なリスクは直近4週間で大量解雇された連邦政府職員が消費支出を押し下げ、それがより重大な景気減速へと広がっていくことだ」と警告している1

金融市場はトランプ政権の政策が明確になるまで、今後も不安定な展開が続く可能性が高い。投資家にとっては、従来「安全資産」とされてきた米国債に対する認識の見直しを迫られる局面となっている。

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